頚髄損傷について
頚髄とは
背骨(脊椎)の中には、脊髄という神経の束があります。脊髄は首から尻まであり、部位により首=頚髄・胸=胸髄・腰=腰髄・尻=尾髄と呼びます。
頚髄は、頭に近い部位のC1から、首の付け根の部位のC8まで、8つのブロックに分かれます。
頚髄損傷の原因
原因は様々です。スポーツ・交通事故・転倒などにより、頚椎を骨折や脱臼することで、頚髄が損傷します。また、腫瘍や感染などの病気により、頚髄を損傷することもあります。
脊髄性麻痺
脊髄(頚髄)は、脳と体の間の情報を伝達する通路です。その通路である脊髄(頚髄)が損傷することで、脳と体の間の情報が伝達されなくなり、運動機能や知覚、自律神経による機能など、様々な麻痺が生じます。
麻痺は損傷部位から下に生じます。(例えば、頚髄なら首から下に麻痺、胸髄なら胸から下に麻痺。)なお、損傷の程度・具合により、完全麻痺と不全麻痺に分かれます。完全麻痺の場合は、損傷部位から下の全てに麻痺が生じます。不全麻痺の場合は、損傷部位から下の部分的に麻痺が生じます。
頚髄を損傷すると少なからず麻痺が生じ、多くの人は車椅子での生活になります。また、麻痺の範囲や程度にもよりますが、ベッドから車椅子への移乗動作など、自立動作の多くが困難になり、介護(介助)が必要な生活になります。
運動機能の麻痺の範囲
頚髄を損傷した場合、胸から下のほぼ全体に麻痺が生じますが、頚髄の損傷部位により、肩・腕(指)には麻痺の有無が生じます。下の表は、損傷部位と運動機能麻痺の有無の対応を示します。
運動機能 | C1 | C2 | C3 | C4 | C5 | C6 | C7 | C8 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
肩をすくめる | × | △ | △ | △ | ○ | ○ | ○ | ○ |
横隔膜呼吸 | × | × | △ | △ | △ | ○ | ○ | ○ |
腕を上げる | × | × | × | × | △ | △ | ○ | ○ |
肘をまげる | × | × | × | × | △ | △ | ○ | ○ |
手首を動かす | × | × | × | × | × | △ | △ | △ |
指をのばす | × | × | × | × | × | × | △ | △ |
肘をのばす | × | × | × | × | × | × | △ | △ |
指をまげる | × | × | × | × | × | × | △ | △ |
麻痺に伴う症状
- 起立性低血圧
- 自律神経の機能障害により血管が十分収縮されず、血液が下半身や内臓に溜まり十分に還流しなくなるため、急に起き上がった時や食事のときなどに、一時的に脳貧血状態になることがあります。
- 体温調節
- 自律神経が麻痺するために発汗ができなくなります。通常、汗が蒸発する際に体温を気化熱として発散しますが、発汗できないため体内に熱がこもり、うつ熱や脱水症状を呈しやすくなります。
- 痙性
- 麻痺域の腱反射が亢進し、皮膚刺激や内臓刺激に対して筋肉が一斉に収縮することにより、筋肉の痙攣が起こります。筋弛緩剤などを服薬することで、筋緊張を和らげられることがあります。
- 自律神経過反射
- 自律神経の機能障害により、身体の何らかの異常を契機に急激な血圧上昇が起こり、頭痛・発汗・顔面紅潮・鼻閉感・鳥肌・徐脈などの症状が表れます。身体の異常として、尿便の溜まりすぎ、傷(じょくそう)や骨折といった怪我などが挙げられます。
- 排尿障害・排便障害
- 排尿機能が障害され、尿の排出ができなくなります。逆に失禁を起こしたりもします。これを神経因性膀胱とよび、膀胱瘻によるカテーテル留置・自己導尿や叩打手圧による排尿が必要になります。神経因性膀胱の尿路合併症として、腎臓・膀胱結石、尿路感染、性器感染を引き起こすことがあります。
- 排便機能が障害され、便意が消失します。また、腹圧をかけることができず、自力排便が困難になります。大腸を刺激する座薬や摘便といった、排便操作が必要になります。
介護用品・補装具・自助具
車椅子
大きく分け、自走車椅子・介助車椅子・電動車椅子の3種類があります。この他にシャワーチェアー(入浴用車椅子)もあります。室内用/屋外用と生活のシーンに合わせて使い分ける人も多いようです。(車椅子メーカー一覧)
車椅子グローブ
指が動かなくなり、物を掴むことができなくなるので、車椅子のハンドリムを掴んで動かすことが困難になります。車椅子のハンドリムを、掌から手首で押さえやすくするために、すべり止めゴム付きのグローブを着用します。(車椅子グローブメーカー一覧)
電動ベッド
自力での起き上がり動作が困難(不可能)になるので、起き上がり(ギャッジアップ)機能の付いた電動ベッドを使います。(パラマウントベッド・フランスベッド)
頚髄損傷に関する書籍
頚髄損傷のリハビリテーション
頚髄損傷は重度の障害となりうる深刻なものである一方、近年リハビリによるその回復到達レベルは非常に高まってきた。その治療とリハビリ療法をできるだけ詳しく平明に解説した現場マニュアル。
- 価格:5460円
- 発行:2006年8月
頚髄損傷者のための自己管理支援ハンドブック
目次:脊髄損傷と脊髄性麻痺、頚髄損傷者の健康管理、褥瘡の予防、食生活、車いす、更衣、排尿、排便、入浴、家庭でできるリハビリテーション、頚髄損傷と性、自助具
- 価格:2940円
- 発行:2008年3月